導入企業インタビュー

ドライバーの労務管理を劇的に改善し、
「2024年問題」に挑む菱木運送株式会社

いま、日本の運送業は大きな危機を迎えている。2024年4月の「改善基準告示」の改正にともない、ドライバーの労働時間に上限が課されることで、輸送能力の大幅な低下が懸念されている。いわゆる「2024年問題」である。この物流の根幹を揺るがす問題の解決のために、ITを活用した独自の労務管理システムを開発したのが、菱木博一社長である。法令遵守という本来の目的だけではなく、自社にさまざまな付加価値も生み出している成功事例はどのように生まれたのであろうか。菱木氏に話を聞いた。

  • お話を聞いた方

    菱木運送株式会社
    代表取締役社長 
    菱木 博一

  • 菱木 博一
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菱木運送株式会社

業種別DXのポイント

  • ドライバーの時間情報をリアルタイムに配信する「乗務員時計」を開発
  • ドライバー、運行管理者の労務管理の効率化
  • 待機の傾向をAI分析し待機時間を改善

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▶︎ドライバーの操作画面

改善基準告示の徹底遵守を

菱木氏がDXに取り組むきっかけになったのは、ドライバーの休息の取得に対して労働基準監督署から行政処分を受けたことだった。運送会社として法律を遵守するのは当然の責任だ。しかし、その判断基準となる「改善基準告示」があまりにも複雑すぎるために、遵守させる内容をドライバーに認知させることが難しかった。さらに、当時の運送業界は “早く荷物を届けること”が最優先事項であり、ドライバーの労働時間など二の次だった。そうした中で、運行管理者がドライバーの行動を事細かに把握し、正確な指示を出すことは極めて困難だった。
「タコグラフの数字を見れば違反かどうかはわかりますが、違反しないためにはどうするべきかがわからないので根本的な問題の解決になりません。しかし、運送会社を安心して経営するためには、性格も人柄も異なる全てのドライバーに遵守させる必要があります。彼らをサポートするシステムの開発が急務でした」。

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運送用トラック

ドライバーの時間情報をリアルタイムで確認

そこで開発されたのが、コンプライアンス・サポートシステム「Navisia 乗務員時計」だ。デジタルタコグラフに記録される運行データから最新の労働時間を自動で計算し、改善基準告示を遵守するために必要な時間情報をドライバーと運行管理者にリアルタイムに配信する。ドライバーは、連続運転可能時間、停止時間、拘束時間がスマートフォンでひと目で確認できるため、自発的に労働時間を管理できる。出勤時に不足などの違反があった場合は、違反を指摘する警告音が鳴るため、運行管理者の負担軽減や労働時間削減にもつながる。退勤時には次回出勤予定時刻や翌日の休息時間もその場で確認できるようになっており、毎日の出退勤管理をサポートする。さらに菱木氏は、労働時間が減ることで生じるドライバーの給与減少の対策として、ポイント還元システムを導入した。法令を遵守したら1ポイント10円、100ポイント獲得で1日1000円を支給する。これによって、ドライバーは導入前と同等の給与額を確保できる。
「DXの導入を適切に進めるためには、従業員とWin-Winの関係性をつくることが大事です。当初は古株のドライバーから反発を受けることも想定していましたが、現在までシステムの導入が原因で辞める者はおらず、皆、働いてくれています。休息がしっかり取れるため、他社のドライバーから羨ましがれることもあるようです。完成まで15年、予算も2,000万円以上を費やしましたが、会社にもたらされる付加価値を考えれば十分に元は取れます。車両保険料も4分の1になって事故も減りましたからね」と菱木氏は胸を張る。

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点呼支援ロボットでドライバーの安全指導も

この「乗務員時計」と連動することでドライバーの点呼をより円滑にしているのが、2020年秋から本格稼働している点呼支援ロボット「Tenko de unibo」だ。ロボット自体は、国交省がデジタル化の施策のひとつとして推進を始めているため導入する企業は少なくない。しかし菱木運送のロボットには、本人確認、アルコールチェック、免許証チェック、体調管理(血圧・体温)などの基本的な点呼業務だけではなく、出退勤管理、スマホ・デジタコ連携、さらには安全指導というオプション機能も付加されている。毎月の安全指導教育をドライバーの都合のいいタイミングで受講できることから、運行管理者だけではなく、安全指導を行う教育担当者の負担軽減にもつながっている。

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点呼支援ロボット「Tenko de unibo」

待機の改善なくして24年問題の解決はなし

この「乗務員時計」で成し遂げられることが、もうひとつある。業界全体の課題である待機時間の改善だ。
「取り組みを始める以前から、運送会社が抱える最大の問題は待機時間にあると感じていました。待機の改善なくして24年問題の解決はない。そこを乗務員時計でサポートできるようにしたいと考えました」。
例えば、現場でドライバーが長時間待機していても待機時間がリアルタイムで確認できるため、荷主に対してダイレクトに改善依頼ができる。無駄な時間が正確なデータとして“見える化”できるので説得がしやすくなるのだ。菱木氏は、今、そうした待機が発生する仕組みを根本的に解決する手段を検討している。
「待機の傾向をAIで分析して、データを集積するシステムを開発中です。そのデータを基に、お客様に合った待機時間対策を会社として提案する。そうした提案型のコミュニケーションができれば、お客様からさらに選ばれる運送会社になるはずです。2024年2月頃には完成する予定です」。

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売上よりも付加価値に意義がある

「この取り組みは利益が上がるような派手さがないんですよ」と笑う菱木氏だが、会社としての安心感や社会的な信頼は間違いなく増大している。事実、会社の売上も導入2年目から上昇している。また、「乗務員時計」が厚生労働省や内閣府、NHKなどで取り上げられ、社外からの注目度もアップ。国交省などが主催するセミナーへの登壇も要請されるなど、「乗務員時計」の成功はDX化を目指す様々な企業から羨望の眼差しを集めている。すでにトラック500台以上の規模をもつトップレベルの運送会社では本アプリの導入が始まっている。
“世の中にないもの”を必要だと信じて作り続けるのは結構しんどかったですが、励ましのお電話などもいただきました。自画自賛になりますが本当にやってよかったです」。

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利益以上に得たものがあると語る菱木社長

アドバイス

物流業界は、AIやITが身近ではない分、成功すれば会社の評価はおのずと高くなります。その1つの手段として、DX化は非常にいい選択だと思います。DXを導入して会社全体のレベルを底上げしていかないと、運送会社のイメージアップにもつながりません。『いつかはやらなきゃいけない』という強い危機感を持って取り組むことが大切ではないでしょうか。

企業情報
企業名 菱木運送株式会社
本社 〒289-2179
千葉県匝瑳市小高208
営業所 〒289-1143
千葉県八街市八街い27-3
TEL:043-443-5250 ㈹
代表者 代表取締役社長 菱木 博一
設立 1971年1月8日
資本金 20,000,000円
従業員数 57名
URL http://hishiki-unso.co.jp/