DXで革新的な「働き方改革」を
平山建設株式会社の挑戦
世界への玄関口・成田国際空港を有する、千葉県成田市。この街を拠点に、戸建やマンションなどの住宅から高齢者施設や公共建築まで幅広い分野の建物を手がけているのが、平山建設株式会社だ。「ふるさとづくり、街づくり、建物づくり」をモットーに掲げる同社は、働き方改革推進のためにDXを導入し、大きな成功を収めている企業だ。その成功事例は、どのようなきっかけで始まり、どのような成果を生み出したのだろう。平山秀樹社長に話を聞いた。
-
平山建設株式会社
代表取締役社長
平山 秀樹
業種別DXのポイント
- 専門家の指導のもと、社内に「働き方改革委員会」を新設し定期的に議論
- 「デジタル化」→「クラウド化」→「データ活用」の3ステップで実現
- 社員同士のコミュニケーションの形を変えることで、働き方を変える
「2024年問題」の解決のために
平山氏がDXの導入を決意した背景には、建設業界の「2024年問題」があった。2024年4月から規制が適用される建設業の働き方改革により時間外労働の上限が規制されるため、長時間労働が常態化している建設会社は大きな打撃を受けることになる。法令遵守を徹底し会社を存続させるためには、これまでの働き方を大きく変える必要があった。「“現場が命”の建設会社には死活問題になる。本当になんとかしなきゃいけないと腹が座りました」と語る平山氏は、もともと興味のあったITを活用して様々な改善策を社員たちに提示する。しかし、社員からはネガティブな反応ばかりだったという。
「2010年頃から、GoogleのG Suite(現在のWorkspace)を現場に活かせないか話していました。しかし、社内のITに対する抵抗感が根強く、なかなか思うように進めることができませんでした。若手から『現場は紙です』とも言われました。そうした中で、Googleサービスを企業に定着させる支援を行うEDL社の平塚社長と出会い、社員の教育から取り組んだことで順調に進めることができました」。
その足がかりとなったのが、社内に設置した「働き方改革委員会」だ。各部門から数名ずつ計15名の社員を募り、残業時間削減や業務効率化に対する課題について定期的に議論を重ねた。
社内のほぼすべての業務をクラウド化
そうして誕生したのが、Google Workspaceを活用した業務改善システムだ。これまで紙や、エクセルやワードで管理されていた稟議書や実行予算書などの社内文書をすべてクラウド化、1週間程要していた稟議が最速1時間に短縮された。また、電話、移動、手戻りを減らすために、社内のコミュニケーションツールにGoogleチャットを導入した。現場作業に必要な書類や写真の送受信もスマートフォンやタブレット端末で簡単にできるため、現場の社員は作業中でも手を止めることなく円滑にコミュニケーションを取ることができる。出退勤管理もタイムカードからスプレッドシートの勤務管理簿に完全移行し、効率化を実現。現在ほぼすべての業務がクラウド上で共有されている。平山氏は、こうした導入までの一連の取り組みを、①データをICT※1で活用できる形で蓄積する「デジタル化」、②データを共有する「クラウド化」、③データで問題を解決する「データ活用」の3ステップで進めた。
「電話の代わりにチャット、紙の代わりにスプレッドシート、打ち合わせの代わりにGoogle Meetを導入したことで社員同士のコミュニケーションの取り方が劇的に変わりました。最初は抵抗していたベテラン社員も、使ってみて便利だとわかれば自然と使いこなせるようになります。これが3年ほどで実現できたことは大きかったです。現場の記録もフォトラクションというアプリを使うことで990分から20分に時間短縮、平均残業時間も約3割削減されるなど業務の効率化にもつながりました」。
※1情報通信技術
建設業界全体の生産性向上を目指して
現場との協力体制を強化する取り組みも進めている。デジタルサイネージ※2をモデル現場に設置し、DX活用の有効性や職人へのインタビュー動画など様々な情報を発信している。それを見たモデル現場のお施主様※3の製造業の会社が同社のDXシステムの導入を決めるなど自社の宣伝活動にも一役買っている。2022年8月には、千葉県の建設会社としては初めて「経済産業省のDX認定制度」を取得した。2023年7月には、建設業全体の生産性向上につながる新たなDXモデルを構築するために、NTT東日本株式会社、株式会社ネクストフィールドの2社とアライアンス※4を締結した。
しかし、平山建設のDX化はまだまだ発展途上だ。その進化をさらに加速させるために、工事部内に「働き方改革課」を新設して社内BPOを実施している。
「ここまでDX化が実現できて満足はしていますが、工事や施工管理といった各事業の工程を今一度細かく洗い出してみないと、本当の意味でのDX化はできないと思っています。今後の課題は、職人さんたちをどう巻き込んでいくか。そのために中核事業である工事部門を見直して、新たに自動化できるポイントやリモートワーカーの活用の仕方など多角的な視点から模索しているところです。企業の継続こそが顧客への最大のサービスです。今後もDXを追求し、皆様から『平山建設が成田にあってよかった』と実感していただけるような仕事を続けていきたいと思っています」。
今、建設会社は倒産が増えている。時代という逆風が吹き荒れる中、平山氏にとってDXの導入は建設業界にどのような意味があるのだろう。
「建設会社にとって、2024年問題を良い形で着地できるほぼ唯一の手段がDXだと思います。就業人口が減り続ける一方で、社会からの要求が非常に高いのが建設会社です。そうしたニーズを満たしていくためには、ビジネスチャット、オフサイト支援やリモートワークといったDXを上手に活用することです。間違いなく今まで以上に生産性を上げることができます。今こそ、業界全体でそういう方向に進むことが大切ではないでしょうか」。
※2ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するメディアの総称
※3施行依頼する主を建設業界では「お施主様」と呼ぶ
※4異なる複数の企業が互いのメリットを得るために協力しあうこと
アドバイス
DXを導入し活用していくためには、社長自身が勉強し、社員と一緒に成長していくことが大切です。ボトムアップ※5とトップダウン※6の両方がないと、企業の文化は絶対に変わりません。継続的に雇用を続けていくためにも、今、ここでデジタル化に本気に取り組まないと本当に時代に置いていかれます。今、建設業者の倒産が増えており業界は危機を迎えています。DXを使って、2024年問題を私たちと一緒に乗り切りましょう。 ※5現場の従業員の意見を聞いて、それをもとに経営陣が意思決定していくこと ※6経営陣が意思決定を下し、それに基づいて現場の従業員が動くこと
企業情報 | |
---|---|
企業名 | 平山建設株式会社 |
本社 | 〒286-0033 千葉県成田市花崎町943番地1 TEL:0476-23-1111 ㈹ |
成田参道口支店 | 〒286-0033 千葉県成田市花崎町816-2 ラ・エント成田5階 TEL:0476-23-1122 |
代表者 | 代表取締役社長 平山 秀樹 |
設立 | 1962年8月21日 |
資本金 | 100,000,000円 |
従業員数 | 76名 |
URL | https://hirayama.com/ |