導入企業インタビュー

古くて狭い、小さな特養が
内閣総理大臣表彰を受賞
離職率0%を実現した
友愛十字会のDX化への挑戦

東京・世田谷区砧。緑にも恵まれた閑静な住宅街の中に、社会福祉法人 友愛十字会「砧ホーム」はある。1992年に開設した同施設は、「共に生きる」という法人理念の下、職場ファーストのDX化によって劇的な業務改善を実現している。内閣総理大臣表彰も受賞した、その成功の裏にはどのような課題があり、どのような取り組みが進められたのだろうか。当時施設長としてDX化を推し進めた鈴木健太氏に話を聞いた。

  • お話を聞いた方

    社会福祉法人 友愛十字会
    法人本部事務局
    介護生産性向上推進室長
    特別養護老人ホーム友愛荘
    施設長
    鈴木 健太

  • 鈴木 健太
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社会福祉法人 友愛十字会

業種別DXのポイント

  • 魅力あふれる施設をつくるためにICT化を推進
  • 補助金制度を活用して介護ロボットや福祉器具を導入
  • 成功のカギは「職員ファースト」の視点!職員の負担軽減により、利用者にきめ細やかなサービスを提供

介護職員の質=サービスの質

鈴木氏がDX化に取り組むことになった背景には、慢性的な人材不足があった。2010年から2020年にかけて、世田谷区では特養施設の建設が相次ぎ、区内のベッド数は右肩上がりに増えた。しかし、その一方で、砧ホームの常勤職員数は年々減り続けていた。少人数での激務、休暇も取れない労働環境、老朽化した建物など「働く場所」としての魅力が欠けていることが理由だった。この厳しい現実に危機感を持っていた鈴木氏は、2015年から介護職を中心としたマネジメントに携わり、介護ロボットの活用を目的とした東京都のモデル事業に参加する。そして2017年に施設長に就任し、生産性向上に向けたDX化を一気に加速させていく。
「私たちの業界は、介護職員の質がサービスの質に直結します。介護職員の質とは専門性です。一人ひとりの専門性を上げるためには道具を効率的に活用することもその一つです。そうした取り組みを進めていくことが魅力ある施設づくりにもつながると思い、古くて狭い環境でいかに効率よく介護ができるかを考えて取り組み始めました」。

介護ロボット・福祉器具を積極導入

鈴木氏はまず東京都等の補助金制度を活用して介護ロボットや福祉器具を積極的に導入した。「持ち上げない介護」を実現するベッド固定型リフトやマッスルスーツ※1は、介護業界の職業病でもある腰痛対策にも効果を発揮した。

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(左)ベッド固定型リフト (右)マッスルスーツ

これらのロボットや器具は、必ず事前にデモンストレーションを行い、現場の職員が本当に使いやすいものを選んだ。多忙な毎日の中でも常にアンテナを広げていたからこそ、最新の補助金情報を逃すことなくスピーディーに活用できたのだ。こうした情報収集力もDX化成功の大きな秘訣だという。取り組み始めた当初は、鈴木氏のビジョンに共感できなかった職員が離職するという危機もあった。しかし「将来のために今動くべき」という鈴木氏の強い信念のもと、着実に推し進められた。

※1介護によって生じる腰への負担を軽減する空気圧によって動くアシストスーツ

ICTを活用して業務を改善

そしてさらに、施設のWi-Fi環境を整備し、ICTを活用した見守り支援機器「眠りスキャン」を全床に導入した。ベッドにセンサーを取り付けて、利用者の睡眠の状態をフロアに設置したモニター上にリアルタイムに表示する(睡眠時は青、覚醒時は黄)。

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眠りスキャン

「眠りスキャン」が最も有効だったのは、起床介助だ。それまでは利用者の部屋順に介助を行なっていたが、睡眠中の方を起こしてしまうことがあり、利用者と職員双方の負担になっていた。しかし、心拍数や呼吸数を遠隔で管理し、覚醒した利用者を優先した介助ができるようになったことで、効率的な起床介助が実現し、双方の負担軽減につながった。また、全職員にインカムを装備し、いつでもどこでも連携できるシームレス※2なコミュニケーション環境を実現。入居者のバイタルのデータを自動で記録し転送する介護記録システムも導入した。こうした取り組みを現場の課題を職員と共有しながらボトムアップ※3で進めていった。
「要介護度の高い方が入所されるホームには、認知症の方も少なくないので、特に夜勤の見守り業務はいかに安全を保ちながら効率よくできるかがポイントでした。もともと介護に特化した様々な会議を定期的に行なっており、職員の意見を吸い上げる機会も多かった。情報共有がスムーズにできたことも大きかったです」。

※2つなぎめのない ※3現場の従業員の意見を聞いて、それをもとに経営陣が意思決定していくこと

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眠りスキャンから取得した睡眠データ

「経営のことを考えると大変な時期もありましたが、DX化が実現すれば、いずれ働きやすくなることはわかっていました。私たちはそれを先取りしているだけ。他の施設でやっていないことをやることで“施設の魅力づくり”にもなりますからね。道具は一度に全部ではなく、補助金を活用しながら必要なものを少しずつ増やしていったので、予算面でそれほど負担を感じることはありませんでした」。

内閣総理大臣表彰を受賞

こうした取り組みによって、長年施設が抱えていた様々な課題が劇的に改善された。フロアのICT化とロボットの導入により、職員の負担が大幅に軽減。1日15人必要だったシフトも10人で稼働できるようになり、看護職員がいない夜間でも介護職員が安心して仕事ができる環境に変化。有休消化率は100%を達成した。さらにインカムの活用で職員同士のコミュニケーションが活性化し、報連相がスムーズになった。何か問題が発生した場合でも、その場で協力しながら解決できるため課題解決力が向上した。「働きがいのある職場」が実現したことで離職する職員も大幅に減り、2020年4月1日以降3年連続で離職率0%を達成した。このような多様な効果を生んだ鈴木氏の取り組みは業界内外から高い評価を受けている。東京都主催による公開見学会も行われ、新型コロナウイルス感染拡大前には国内外から年間300人以上が見学に訪れた。また、この取り組みは国にも認められ、2023年8月には「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受賞した。しかし鈴木氏を何よりも満足させたのは、利用者により質の高いサービスを提供できるようになったことだ。利用者の家族からも「安心して預けられる」と高評価を受けている

「どこよりも早く現場目線で導入できたことが一番大きかったですね。ICTもロボットも現場職員の視点で選んでいるのでムダがありませんでした。道具を活用することで職員にプロ意識が芽生え、自身のサービスに自信が持てたようです。変化を恐れないチャレンジングな姿勢が身についたことも良かったです。便利になったことで足りないものも見えてきたので、今後は、入浴と排泄のサポートをさらに効率化できる取り組みなども考えていきたいですね」。

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「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受賞
※社会福祉法人 友愛十字会HPより引用

アドバイス

DXを成功させるには、「職員ファースト」の視点が大事だと思います。それは、「利用者ファーストのための職員ファースト」です。職員が心から働きやすいと思えるような施設をつくらないと、利用者の皆さんにも安心してもらえませんから。そして、どんな小さなことからでも構わないので、できるタイミングで早めに動き始めることも成功の近道だと思います。効果は、あるものではなく、出すものです。

企業情報
企業名 社会福祉法人 友愛十字会
本社 〒157-0073
東京都世田谷区砧3丁目9番11号
TEL:03-3416-3164
事業所 世田谷区、板橋区、千代田区、町田市
代表者 理事長 蒲原 基道
設立 1950年9月25日
従業員数 32名(砧ホームのみ)
URL https://www.yuai.or.jp/