
向上するのは、生産性だけではない。
組織力も底上げする革新的DX。
株式会社今野製作所 代表取締役社長 今野 浩好
東京都足立区の株式会社今野製作所は、1961(昭和36)年に創業。油圧ジャッキの設計・製作、板金加工のオーダーメイドサービスなどを手がける製造業である。「力をあわせる力がある」をコーポレートメッセージに掲げる同社は、90年代後半からIT・デジタルを導入しているDX先進企業でもあり、その成果はさまざまなメディアに取り上げられている。その導入経緯や導入効果などについて今野浩好社長に話をうかがった。
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株式会社今野製作所
代表取締役社長 今野 浩好 氏 -

業種別DXのポイント
- 「業務プロセス参照モデル」を活用して業務を見える化
- ノーコードツール「コンテキサー」で育てる業務アプリを開発
- 情報共有・連携をシステム化することで組織力を底上げ
リーマン・ショックで売上激減。
2つの異なる事業の効率化が急務だった。
今野氏が本格的にDXに取り組んだのは、2008年のリーマン・ショックがきっかけだった。同社では足立区の本社、工場の他に、福島県相馬郡にも工場を有しており、2000年頃からIT環境を整備して拠点間の情報共有を効率化。2002年にはスケジュール共有のために「サイボウズ」を導入するなど、DX化に向けた取り組みをすでに始めていた。

しかし、リーマン・ショックを契機に主力事業である「イーグル」の売上が激減。これまでの受注形態を見直し、個別受注生産(オーダーメイド)への移行を図った。お客様のご要望に合ったものを生産するため付加価値は高く受注は増えたが、それによって業務が複雑に。社員は混乱し、残業も増えていった。その影響は、板金事業にも波及した。2004年に社長に就任していた今野氏は、2つの事業の効率化を視野にDX導入を加速させていく。
「当時、若手の営業マンを採用していたのですが、個別受注生産の営業は難易度が高く、明らかに実力不足でした。お客様の情報や作業の注意点などがしっかり共有できないために設計部門に負荷が集中し、製造部門や業務部門も明らかに混乱しました。人がうまく連携できるようにするためにはデジタルを使わない手はない。これはなんとかしなきゃいけないと思いました」。

専門家の支援のもと、
独自の業務アプリ構築ツールを開発
もともと知り合いだった中小企業診断士やITコーディネーターに相談したところ、業務の仕組みを分析する手法「業務プロセス参照モデル」を紹介される。すべての業務を見える化しなければシステムも機能しないと考えた今野氏は、この理論をもとに社内に「業務プロセス見える化プロジェクト」を立ち上げ、各部門のリーダー、実務者とともに、業務上の課題を明確にした。

さらに、2010年には法政大学の西岡靖之教授の指導のもと、ノーコード(プログラミング不要)の業務アプリ構築ツール「コンテキサー」を用いて、受注、調達、製造、出荷までのすべての流れをカバーする独自の生産管理システムの自社構築プロジェクトをスタートさせた。各業務の情報がデータでつながることで、離れた場所にいる担当者も、業務の進捗をリアルタイムで把握することができる。また営業案件などの情報共有や、情報のやり取りには「Kintone(キントーン)」を導入。業務の流れが可視化されることで、手戻りを防ぎ、受注までのリードタイム短縮につながる。この2つのツールによって情報の共有・連携をシステム化したことで、拠点同士のつながりも大幅に効率化した。


「時間をかけて改善を進めたのでシステム導入により効率化された時間を具体的な数字で表すのは難しいですが、複雑な業務プロセスを要求する個別受注生産品であっても、自信を持って注文を請け負えるようになりました。作業が複雑になれば、その分単価も上がります。複雑で手間が掛かってもお客様が付加価値を認めていただければ、その分高い単価をいただくことができます。このシステムがなければ、これだけ付加価値の高い受注生産を続けられなかったと思います」。

付加価値の高いビジネスモデルへの転換を後押ししたと語る今野社長
全員参加型の組織を形成、
IT人材育成にも注力
DX化によって得られたのは、生産性の向上だけでなはなかった。システムを自社で開発することで社員のITスキルも底上げされた。そしてさらに、全員参加型の自律的な組織が形成された。
「私たちが複雑な作業にも関わらず付加価値の高い製品が提供できるのは、社員一人ひとりが次の人に情報を正確に受け渡せているからです。時代は今、思いも寄らぬ出来事が次々に起こる不透明な時代です。だからこそ、何があっても“全員でなんとかする”対応能力が必要です。中小企業がDXを導入する目的も、そこにあると思っているんです」。
そう語る今野氏は、次世代を担う人材の育成にも情熱を注いでいる。江戸川区に拠点を置く株式会社Creative Worksと株式会社エー・アイ・エスの2社と連携し、ものづくりに関する勉強会を毎週開催。モーションキャプチャを活用した溶接技能継承の取り組みなどを行なっている。

己のスキルを磨くために切磋琢磨している若手社員たちの姿を見つめながら、今野氏はいう。
「DX化で大切なのは、経営者自身がデジタルの可能性を信じられるかどうか。その信じるに足るだけの証拠はもう十分そろっていると思います。DXは若い人たちが主役です。今のシステムに満足することなく彼らにどんどん進めてもらいたいですね」。
アドバイス
会社によって課題も様々だと思いますが、まずは経営者の視点で業務全体を俯瞰で整理することです。あまり短期的に成果を求めない方がいいですよ。結果が出ないとすぐにやめてしまう経営者もいますが、DXでできることはどんどん増えていきます。スモールサクセスを積み重ねていけば「みんなで改善しよう」という空気が自然に生まれてくると思います。

企業情報 | |
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企業名 | 株式会社今野製作所 |
本社 | 東京都足立区扇1-22-4 |
神明事業所 | 東京都足立区神明南2-16-19 |
福島工場 | 福島県相馬郡新地町福田北原154-5 |
代表者 | 代表取締役 今野 浩好 |
設立 | 1969年10月 |
資本金 | 30,200,000円 |
従業員数 | 38名 |
URL |
・HP:https://konno-s.co.jp/ ・Facebook:https://www.facebook.com/konnosCOM/ ・instagram:https://www.instagram.com/accounts/login/?next=https%3A%2F%2Fwww.instagram.com%2Feaglejack_japan%2F%3Fhl%3Dja&is_from_rle |