導入企業インタビュー

壁にぶち当たることで見出した
DXという解決策で、
研究開発提案型中小企業へ。

株式会社西川精機製作所 代表取締役 西川 喜久

株式会社西川精機製作所は、創業60年以上を誇る老舗の金属加工製造企業である。メッキ工場で使用される治具の製作に始まった同社のものづくりは時代とともに進化、高精度な製品を次々に生み出している。その一部は「京」「富嶽」といったスーパーコンピューターにも採用され、アーチェリー弓具を開発製造する日本唯一の企業としても知られている。同社では最新鋭のソフトウェアなどを導入し、ひとつの分野にとらわれない多様な事業を展開している。その導入経緯やエピソード、今後の展開などについて、代表取締役西川喜久氏にお話をうかがった。

  • お話を聞いた方

    株式会社西川精機製作所
    代表取締役 西川 喜久 氏

  • 今野 浩好
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株式会社西川精機製作所
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既存事業である自動プリント配線基板メッキ装置用器具(治具)の製造
代表例:スーパーコンピューター(京・富岳)用多層基板メッキ装置治具

DX化のポイント

  • デザイン業務にAIを活用したソフトウェアを導入
  • 最新鋭機械と連携し、加工から品質管理までをシームレス※1
  • ものづくりを核にした多角的な事業展開を実現

※1 つなぎ目のない

AIを活用したソフトウェアを導入し
人材不足を解消、製品も高精度に

西川氏がDXを導入する契機になったのは、オートデスク社から取引先の日本大学へ出向し講師をしていた先生からソフトウェアの実証実験を依頼されたことだった。オートデスク社は設計用のソフトウェアを数多く開発しているアメリカの企業だ。当時すでにアーチェリー弓具の開発を始めていた西川氏にとって、同社の最新鋭のソフトウェアで最高の弓具を生み出すことができる経験は心躍るものだった。しかし、設計の要であるデザイナーがいなかった。外部に委託すれば当然コストもかかる。そこで西川氏はソフトウェアの活用を決意する。それが、AIを活用した3Dモデリング「AUTODESK FUSION 360°」である。デザインに必要な機能をAIで生成、人の手も加えながらモデリングをし、CADデータを作成する。工程はすべてクラウド内に実装されているため、どの段階からでも進行状況を確認できるうえ、チェックのタイムラグもなく、製造サイクルを円滑に回すことができる。さらに、完成したデザインを最新鋭の製作設備と連携することで、加工、切削、組立、品質管理までシームレスに推進。タクトタイム※2とイニシャルコスト※3を省くことができる。
「このソフトウェアによって、多面加工などの複雑な形状のデザインを高精度かつ迅速に実現できるようになりました。出荷前検査でも製品の決められたポイントを計測することで2/100レベルの精度まで測定できるため、より高品質の製品を取引先に提供できます。技術顧問にアーチェリー弓具製造に必要な技術を教育してもらうところから始めたので、最初の製品が完成するまで3〜4年かかってしまいましたが、今では毎年必ず1種類以上のモデルを手がけることができています。開発のスピードが大幅に速くなりました」。

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AIを活用した3Dモデリング「AUTODESK FUSION 360°」

※2 製品を一つ作るのに必要な時間
※3 初期費用、導入費用

ものづくりを核にした
多角的な事業を展開

最先端のDXを導入したことで、西川氏の会社は大きな転機を迎える。「研究開発提案型中小企業」を目指し、ものづくりを核にしたさまざまなチャレンジをスタートさせたのだ。創薬研究機器を開発する企業と事業継承を活用したM&Aを実施し、医工連携事業に進出する。農業分野においては、国内自給率向上に向けた農業振興支援機械を開発。また、カーボンフリー時代に向けた次世代超小型モビリティの開発をトヨタ紡績株式会社や日本大学理工学部などとの産学連携で進めている。さらに、厚労省の自立支援機器開発事業にも取り組み、誰もがアーチェリーを楽しめるような弓具や用具を開発するなど、ユニバーサルスポーツメーカーとしての実績も重ねている。こうした多様な事業を展開していく中で、西川氏が最も苦労したのが、「ないものをいかにして手に入れるか」ということである。
「人は壁にぶち当たって考えることで解決策を見出すことができると思うのですが、その作戦を実行するための技術やデータを手に入れるのが大変でした。持っている人に協力していただくしかないのに、どこにどんな相談をすればいいのかがわからない。私は作りたいものが明確に決まっていたので支援機関や大学などに聞けましたが、何を作っていいのかさえわからない中小企業の方は、まずは支援機関に聞いてみるといいかもしれませんね」。

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トヨタ紡績株式会社や日本大学理工学部などとの産学連携で進めている
次世代超小型モビリティ。西川社長も毎日の通勤に利用している

技術者だから生きていける
時代ではない

西川氏がライフワークにしているアーチェリー弓具の開発は、JETRO(日本貿易振興機関)による伴走支援を受けながら進んでおり、スペイン、トルコ、ギリシャなどへの海外進出も検討している。「いつか日本から金メダリストを輩出したいですね」と語る西川氏の表情は明るい。また最近は、会社の一角を新進アーティストのアトリエとして開放するなど地域のアートを支援する活動にも取り組んでいる。自動車のドアなどが製造できるほど巨大な3Dプリンターも新たに設置し、同社の事業はさらなる広がりを見せている。西川氏はさまざまな助成金なども活用しながら、数多くの賞も受賞。その活躍が認められて、中小機構から「中小企業応援士」に委嘱されており、経営革新やデジタル化を目指す企業の経営者にアドバイスをしている。DX化に躊躇している経営者についてどう思うのかうかがった。 「自社のビジネスモデルに対して自問自答することが重要です。そうすれば必ず課題にぶつかります。課題にぶつかれば、それにあった解決方法を支援機関やメーカーに行って教えてもらう。何をしていいのかわからないという経営者は、単にやる気がないだけだと思うんですよね。もはや技術者だから生きていける時代ではありません。あれもしたいこれもしたいというのは無謀だという声もありますが、今こそ変革を求めて動くべきだと思いますね」。

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「日本人に合う弓具は日本人が作る」。日本で唯一の
国産アーチェリー弓具HAWK-Ⅰを手に語る西川社長

取材先企業からのアドバイス

自分たちがいかにぬるま湯の中にいるのか、自社の状況を立ち返り、変革の必要性に気づいてください。何とかなると思っているうちは、おそらく何にもならない。0を1にする意識を早く持たないと、どんどん時代に取り残されていくでしょう。不安になることがそもそものスタート。大切なのは、そこに抗う気持ちを持つことです。

企業情報
企業名 株式会社西川精機製作所
本社 東京都江戸川区中央 1-16-23
松島工場 東京都江戸川区松島 1-34-3
代表者 代表取締役 西川 喜久
設立 1960年6月
資本金 10,000,000円
従業員数 8名
URL HP:https://nishikawa-seiki.co.jp/wp/