ハードルを下げて“脱アナログ”。
手軽に始められるDXで、
業務効率化と社内コミュニケーションを促進。
ムソー工業株式会社
代表取締役 尾針徹治
大田区京浜島。工業専用の埋立地として開発されたこの街で、精度の高いものづくりに専心しているのが、ムソー工業株式会社である。1950(昭和25)年の創業から代々続く家族経営の企業で、主に大学や研究施設で使用される実験のための装置や、そこに必要な治具や機器の製造を行っている。同社では2017(平成29年)頃からDXの導入を推し進めて売上を順調に拡大している。導入に至るまでの背景や経緯、そしてどのような効果があったのか。代表取締役の尾針徹治氏にお話をうかがった。
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ムソー工業株式会社
代表取締役 尾針 徹治 氏 -
DX化のポイント
- ホームページを開設して販路を拡大、一社依存から脱却
- 「Salesforce」 「TECHS」などのソフトを効果的に導入し、業務を効率化
- 「LINE WORKS」を活用して社員同士のコミュニケーションを促進
急務だった、一社依存からの脱却
尾針氏が入社した当時、同社の経営は順調そのものだった。創業者である祖父が構築したものづくりのネットワークと、父親である先代社長が育てた質の高い技術力が掛け合わさり、年々業績を伸ばしていた。しかし取引先は一社依存の傾向が強く、売上のおよそ8割が大手鉄工メーカーからの発注によるものだった。こうした状態に危機感を募らせていた尾針氏は、新規販路の拡大のためのホームページの制作を先代社長に訴えた。しかし、デジタルに対して強い抵抗感があった社長はなかなか首を縦に振らなかった。ときには激しく意見をぶつけあうこともあったという。そこで尾針氏は自らの手でホームページを制作して販路拡大を図る。会社の住所と電話番号だけの簡素なホームページに取引先の新規獲得につながる事業内容や自社の魅力を掲載し、SEO対策※1も万全にした。専門的な知識もなかったため、通常業務と両立しながら独学で学び、3年の月日をかけてようやく開設した。その結果、ホームページからの問い合わせも徐々に増え、販路もどんどん広がった。そして2017年に事業を承継して3代目の社長に就任。ほとんどがアナログだった自社の業務を改善するために、デジタル化すべきところアナログで残すべきところを精査しながらDX化を積極的に推し進めていく。
「当社は人手も少ないし敷地も狭い。それでも効率化を実現しなければならなかったので、デジタルの力を借りることは積極的にやっていこうと決めていました。まずは、お客様を管理するシステムなどのバックオフィス的なところから進めることにしました」。
※1Search Engine Optimization(検索エンジン最適化)の略。検索エンジンの検索結果のページ上位にサイトが表示されるための施策
変えるところと変えないところの
バランスを見極める
尾針氏がまず取り組んだのが現場の改革だった。現場の職人たちは創業時からのやり方をほとんど変えていなかったため、製品をつくるための材料の下ごしらえもすべて手作業で行っていた。そこで尾針氏は、インターネットで下ごしらえ済みの材料を調達することでムダな時間を減らした。さらに、パソコン上で図面が書ける製造業向けツールのCADを東京都の補助金を活用して導入し、設計の工程を大幅に効率化した。お客様の頭の中にあるイメージもすぐに図面にできるため、提案力と信頼性も向上し、今や設計工程の強化は同社の主力事業である治具や器具の製造における、大きな強みとなっている。
また、同社では受注した仕事にひとつずつ番号を割り当てて、その作業の進捗状況を病院のカルテのようにファイリングして管理していた。しかし、その紙を外したり閉じたりしている間に紛失してしまったり、過去の案件の情報を探すために30分以上もかかってしまうなど、必ずしも有効といえるものではなかった。そこで尾針氏は過去のすべての業務をExcelでデータベース化、確認も検索も瞬時でできるようにした。現在は、クラウド型の顧客管理ツール「Salesforce(セールスフォース)」に切り替えて、より効率的に業務を管理している。「Salesforce」は自動でグラフ化できるうえ、レポート機能やボタンを押すだけで最新情報に切り替えることができるメリットがある。生産管理システムには、バーコードで管理ができる「TECHS(テックス)」※2を導入。このソフトは原価計算ができるため先代の時代には曖昧だった値決めを可能にし、見積の根拠がしっかり説明できるようになったことで顧客からの信頼もより高くなった。また、終業後に先代社長に手渡しで提出し、一人ひとり承認をもらっていた作業日報は、勤怠管理アプリを導入し、スマートフォンで簡単に提出できるように。従業員の負担軽減へとつなげた。
「無料で使えるものから少しずつ始めていきました。私はもともと現場にいたので現場で何が必要なのかがわかっていました。デジタル化といっても、父のやり方を根本から変えてやろうと思ったわけではなく、父のやり方をそのままデジタル化しただけ。変えるところと変えないところを見極めながらバランスよくやっていったのが良かったのかもしれません」。
※2多品種少量型の部品加工業様向けに開発された、中小企業のための生産管理システム
チャットで連絡するだけではなく
現場にも足を運んで手厚くフォロー
こうした取り組みに対して現場の職人からは不満の声もあったが、ベテランの社員でも簡単に使えるものを導入することや、既存のアナログシステムと新しいシステムの並走期間を設けることで徐々に理解を広げていった。現場の作業スケジュールを共有するために「LINE WORKS」を導入した際には、内部のコミュニケーションも促進され、社員同士が助け合って仕事を進められる環境が生まれた。前述の「Salesforce」を導入した際には既存のExcelとの並走期間を1年以上設けたことで、順調に取り組みを進めることができたという。3年かかって作り上げたホームページにはアクセス数や流入経路の解析、営業活動に効果的に活用できるMA(マーケティングオートメーション)ツール「BowNow」を導入。また、インスタグラムを積極的に発信して人材活用にも注力している。今後はAIを現場と経営に導入し、設計の精度向上や新人への技能継承に役立てていきたいと話す尾針氏にDX化のポイントを聞いた。
「DX化は、トライ&エラーを繰り返していくことで最も理想的なところを見つけてたどり着いてくことだと思います。最初は言葉の意味もわからずに苦労しましたが展示会に行ったりIT関連の情報を調べたりして少しずつ知識を吸収していきました。同規模でDXを導入している会社を実際に見学させてもらって、いいと思ったことは真似してみたりもしました。とにかく自分の目で見てみることが大事だと思います」。
取材先企業からのアドバイス
DXといっても、自分がやりたいことの後押しをしてくれるツールのひとつなんです。スマホにアプリを入れるような感覚で面白がりながら使ってみればいいのではないでしょうか。懇親会などにも参加して他社の成功事例の真似をしてみるとか、あまり難しく考えずにまずはやってみようっていうことが大事だと思います。
| 企業情報 | |
|---|---|
| 企業名 | ムソー工業株式会社 |
| 本社 | 東京都大田区京浜島2-13-9 TEL: 03-3790-0666 (代表) |
| 代表者 | 代表取締役 尾針 徹治 |
| 設立 | 1963年8月 |
| 資本金 | 10,000,000円 |
| 従業員数 | 9名 |
| URL |
HP:https://muso-technologies.co.jp/ instagram:https://www.instagram.com/accounts/login/?next=https%3A%2F%2Fwww.instagram.com%2Fmusokogyo%2F&is_from_rle |